2010年10月2日土曜日

鞍馬天狗のおじさんは「十三人の刺客」のひとりでした。

この前、夕刻の劇場で、リメイクされた時代劇「十三人の刺客」を鑑賞しました。ほとんど空席なしのヒットのようです。場面によっては観客席から驚きの声がもれます。大変痛快というか、面白かったです。
DVDでオリジナル版を数回観ているので、どうしても比べてしまいます。それぞれに楽しめます。



1963年、時代劇が翳りが見えていたときに、時代劇王国だった東映が作ったオリジナル版の「十三人の刺客」には、無声映画時代からの時代劇の名優ふたりが出演しています。ひとりは片岡千恵蔵、脚本を読んだ後、自分にも出演させろと迫った結果、東映の重役スタアの願いを断るわけにもいかず急遽、脚本を修正して出演が決まったそうです。この役をリメイク版では、役所広司さんがやっています。

もうひとりが鞍馬天狗の嵐寛寿郎。俗に言うアラカンさんと連絡がつかず、東映のスタッフは出演交渉をするために京都中を探し回ったそうです。やっとの思いで見つけた場所がパチンコ屋さんだったそうで、やはり面白い映画だと出演を引き受けたそうです。この役を松方弘樹さんがやっています。

無声映画からの名優ふたりが、太鼓判を押して出演、クライマックス場面では、毎日救急車が2台待機、ほぼ全員がクッション代わりに身体に座布団をまきつけて撮影したそうです。

ところが思いとは違い、予想したほど、客が来なかったそうです。
「こんな面白い映画がヒットしないとは・・・・」嵐寛寿郎、俗に言うアラカンさんは、時代劇の終わりを感じたそうです。

それでも同じ路線の映画が合計3本作られました。3作品全部に里見浩太朗さんが出演していますが、リメイクの松方弘樹さんと共に、東映時代劇の末期を支えてふたりが新旧同じ作品交錯しているのも因果を感じます。

オリジナル版は、公開されてから40数年後の21世紀になってからその価値が認められて受賞したそうです。リメイク版がヒットするのも当然なのです。敗戦後のGHQによる時代劇製作禁止の時代を乗り越えた無声映画からの時代劇の名優は受賞も、リメイクのヒットも知らないまま逝ってしまったのです。

生涯を娯楽作品に生きた、有り金すべてを女に注いでおけら同然で逝った稀代の人気俳優、鞍馬天狗のおじさんであった名優アラカンさんは、「金と時間さえ用意してやれば黒澤ぐらいの映画を作れる監督は他にも何人もいる」といっていたようです。無声映画時代にプロダクションも持っていたアラカンさんは、自分のプロマイドを売りながら、時には米も盗んだそうですが、火の車の毎日でフィルムを買っては、公園で撮影していたそうです。

どんな世界にも夢を追い、追いつき、最期には見放されて・・・・それでもそのプロセスに生きた証しと呼ぶにふさわしい、どんちゃん騒ぎがあるようです。

ぜひ、お時間があれば、オリジナル版と、ふたりの名優の若かりし日の作品にも目を通して、「鞍馬天狗のおじさんは」を読んでみてください。メチャメチャな人生はメチャメチャ面白いです。禁句連発のインタビューにも驚きです!